【インタビュー】 八木輝治さん - 有限会社鍋八農産 代表取締役

弥富市の南部でICTとカイゼンを駆使した、一味違う農業を実施されている農業法人の有限会社鍋八農産さん。

会社のオシャレなパンフレットには"やりかたはひとつじゃない。あしたの農業をつくろう。"のコピー。

鍋八農産さんは、トヨタ自動車のクラウドサービス「豊作計画」に実証検証段階から参加され、"田んぼでスマホ"がありふれた光景になっている先進的な農業を営まれており、その事業や仕組みに関する情報はたくさん出ています。

そこで今回は、鍋八農産の事業そのものは別の詳しい記事にお任せし、八木輝治 代表取締役が弥富で農業をされているご立場として"弥富に思うこと"をテーマにお話を伺ってきました。

(取材日:2019/12/24 鍋八農産事務所にて)


地産地消を大事にした農業

-(コジロウ)本日は、"弥富に思うこと"をテーマにいろいろとお話を聞かせてください。まずは八木さんの基本的な人となりを教えてください。

(八木さん)私自身は弥富市の出身です。ここ鍋田地区に生まれ育ち、小学校と中学校は弥富です。高校と大学で市外に出ましたが、20歳で創業者である父から家を継ぎ、30年以上を鍋八農産にて農業に携わっています。

米作をしていますけれど、お米を売ることそのものよりも、加工して良いものを面白く作りたい、そういう思いが強いですね。


この地域での地産地消もこだわっていまして、やっぱり地元に人に食べてもらいたいし、不味いなら不味いと言ってもらって、地域の声を受けてその土地にあった「美味しい」を作っていきたいと思っています。

-まずいものはまずいと言って欲しい、ってなかなか自信がないと言えませんね。

地域の声はありがたいですよ。弥富でやるからには弥富に根を刺して活動したいんです。

近鉄弥富駅の駅前で「きはち」というおにぎりの小売店を運営していますが、開店当初は高いとかおいしくないとか、実際に声をいただきましたよ。


-従業員のみなさんは、来客者にも元気に挨拶され、生き生きされていますね。弥富の方が多いのでしょうか。

それが、今現在は弥富出身者は従業員にはいません。社員は14名おりますが、名古屋市や津島市、東海市などの出身で、鍋八農産の事業に興味を持って来てくれた子達で、就職を機に弥富市に住んでいるという社員もおります。

農業に新しい思いを持って市外から来てくれるのはもちろん嬉しいことです。一方で、昔は親戚と地元で農業をやるというのがほとんどでしたからね、弥富出身の社員を採用して、弥富の人が弥富の農業で働くというのも理想の1つです。


近隣の農業高校で農業を学んだ子たちも今は名古屋などに就職していってしまう。弥富市で、農業で働くという事に明るい未来や華やかさを感じにくいのではないかと考えています。

だから最近は、弥富市の日の出小学校の授業に行き、「弥富市内でこんな農業をやっているよ」ということを弥富の子ども達に話しに行っていますね。


弥富の南部で農業をするということ

-弥富で農業をするということの特徴はありますか。

そうですね、ここ鍋田地区を含めて、弥富市は南部側のほうが農業が盛んです。

市内全域が基本的に埋立地ですから、農業には不利な土地です。地盤が緩く、水は排水しづらい。米作には厳しい条件ですが、野菜には向いているのかもしれません。

また、極端に言えば、北部側が都市部で南部側は農村。そういう環境に住んで暮らすことになりますが、南部側の事情を反映して欲しい声が市(北側)に届きにくい。バスなどの市内公共交通は北部のルートが中心になっていて、南部はマイカー前提の生活です。

とは言え、市内の全ての地域を都市化して欲しいということではありません。北部は都市部、南部は農村として割り切ってもらっていいから、それはそれで南部は農村化に特化して、道路占有がしやすかったり、泥や水の規制を農業向けに緩和したりという方向性もあるでしょう。

-なかなか厳しい環境のようですね。

でもね、与えられた条件の中で楽しくやるんです。そういうことをワクワクしながら考えたい。

インフラ整備だけは市にお願いしないとなんともならない部分はありますけど、それ以外は他責じゃなくて自分たちでなんとかやっていきたいといつも思っています。

お店を出すというと都市部ってイメージがありますけど、この広い田んぼの真ん中にお店を作って、そこにお客さんを呼んだら楽しそうだなとか。

この環境からお客さんのところに一部切り取ってそっちに「行く」んじゃなくて、ここに「寄せる」。


周りの農家や畜産の方々も、良いものを一生懸命生産されていますが、PRが少ないと思います。

地域の生産者同士で情報交換したり、商品を一緒にコラボレーションしたりして面白いことをしていきたいのです。

今は、豚屋さんとコラボしてちょっと変わった豚丼を検討中です。

特に南部だけで集めると農家だけに偏りがちですから、北部も含めて、様々な異業種で話し合っていきたいですね。


普通に働けば「楽しい」と思えるレベルに育成をしたい

-従来の古き良き農業みたいな形にとらわれず、発想が柔軟なんですね。やはりトヨタ流のカイゼンですか?

それは大きいと思います。カイゼン文化は社内にはもともとあまりなくて、その弱さをカバーしようという狙いもあってトヨタ自動車の仕組みの実証実験に参加しました。

トヨタさんと組んで5年になりますが、自分たちの中にしっかりとカイゼンの文化が宿りましたし、一緒にやっている県や市の担当さんにも自分たちを改善する気づきが生まれています。

最初は農業に"カイゼン"なんて必要なのか懐疑的なところはあったのですが、クラウドサービス「豊作計画」を開発するトヨタさん側の「なんとかしよう」という姿勢が非常に前向きで、多くの農家を巻き込みながら、よい仕組みに仕上げてくれました。


システム自体は2014年には完成を迎えたのですが、完成後も3か月に1回はシステムをアップデートしてチューニングしてくれます。

そういうカイゼンの姿勢が社内にも伝わりまして、週一回はカイゼン会議を開催し、様々な業務を対象にしてルール化して見える化が進み、発展していくため、社員から自然とカイゼンの声が上がるようになりましたね。思った以上に効果がありました。


例えば、農作業をするときにヘルメットを被るということ。

農作業中にヘルメットをしていないことに社員が疑問に感じて発信してくれたカイゼン事項です。気づいてみれば当たり前のことなのかもしれませんが、農業でヘルメットをしているところは他にはないと思います。


社内の文化としては、年齢や学歴に関係なく意見が言える環境ができたのが良いです。

改善意見に対して、「今まではこうやってやってきたんだから」と言わないことにしていますし、勇気を持って発言した人が偉いのであって、黙っている傍観者こそ悪いという考え方に気づき、根付かせることができました。

私自身は、仕事を楽しみながらやりたいので、社員が考えてやりたいといったことは基本的な方向性だけ合わせたあとは任せていますね。1から10までルールで縛って、常識以下のことまで指示されたら面白くありませんから。

そして、社員に仕事を任せて、私自身は空いた時間を使って新しいことに挑戦するようにしています。遊び心をプラスする仕事ですね。アパレルとかポスターとか。

私たちの事業は、80%が借り農地です。他の農家さんから田畑を借りて、農作を代行しています。この形態は、持ち主の農家さんに嫌われたら終わりです。ですから信頼を大事にして更に、「田んぼ以外も色々やっている楽しいブランド」として広報していくことも重要なんですよ。


また、農業では、田畑をどれぐらいの規模(面積)で展開しているかという「量」にこだわるところも多くいらっしゃいますけれど、私たちは質も大事にしています。

質がしっかりした農業ができるようになっていれば、その時々の状況に合わせて、面積を小さくしたり、休んでみたりもできます。借り農地で戦うと、こういった柔軟性も大切ですね。

19歳から33歳まで社員がいますけれど、スタッフが育っていると感じられることが大事なことです。


止まらない鍋八農産の進化

-興味深い話をたくさんありがとうございます。次の一手に考えられていることはありますか?

ライスコロッケを作りまして、日比谷の音楽フェスで出店したんです。「米農家がこんなことをやっている!」と結構刺さりましてね。

だから色々な形を模索して「ごはん」を発信したいですね。

今は、米粉を使って、グルテンフリーのパンを作ろうとしています。米の専門家として、パンに最適な品種を育てていて、柔らかいパンが作れそうです。

子どもの食文化の入り口は給食ですから、給食に使われることも視野に入れていきたいですね。


また、社員としては農業の専門能力はなくてもいいので、農業に基本的な興味はある上で、農業とは別の分野の特技があるというメンバーが来たら面白いですね。

例えば農業好きなデザイナーさんが入ってきて、アパレルやパンフレット、店舗装飾なんかを高度化する内製ができたらすごく良いです。


ICTの分野でいうと、自動運転ですね。今は自動運転のレベル2というところで、人が監視した状況において自動運転をしています。10年後にはレベル3の無人動作を目指します。

こうなってくると、広大な田んぼに人が出向く必要はありませんから、事務所の中で状況を見ながら少人数で広大な規模の農作を回していくことができます。見るということもドローンやAIにお任せになるのかもしれません。


-今日は本当にありがとうございました。ワクワク楽しく働こう、カイゼンしていこうという八木さんの姿勢と社内の雰囲気はとてもよかったです。いつか雇ってください(笑)



◾️鍋八農産



◾️きはち(近鉄駅前)


コジロウ

弥富市非公式Webメディア「やっとみつけた、弥富」編集長です。
http://yatomi.localinfo.jp

愛知県弥富市在住。
1984年生まれ。


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